さよなら最終兵器③

我々はPick Up Artistだ。そんな小細工なんかより、自分達自身の魅力でここにいる女たちを正面突破しよう。古臭い伝統芸、見せてやろうじゃないか。

 

多くの場合、諦めに至る理由は、
自分に何の力もないと思ってしまうことだ。

アリス・ウォーカー


 

25:00 渋谷駅

「渋谷駅のハチ公口にいるよ」とラインを飛ばし、シティボーイ感を味わう。ほどなく彼と合流した。道中はナンパに適したファッションについての議論を交わす。数年前に我々が出した結論は『結局ファッションは無個性が一番良い。減点を避けることに最適化したものがベストだ』というものであった。僕も彼も最近はそれなりにトレンドに乗った個性的な服装をしていることが多い。我々の理論はどうも時の洗練に耐えられなかったようである。

 

25:30 道玄坂

何度かこの周辺を歩き回ったおかげで、だいぶ土地勘が掴めてきた。驚いたのは道全体が比較的綺麗なことと、歩きタバコの少なさである。この辺りは大阪とは趣が異なる。『僕はTKよりATOMの方が全然イメージいいっすね。マジ相性いいっす。ゲヘヘヘヘ』この辺りは彼のタイプの問題であろうか、少なくとも彼とのコンビではこれまで大きなスタイルの違いを感じたことがなかったため、そのイメージが僕にも当てはまればいい、と少し願った。

『結局ナンパってのはある程度総合力なんで。別に社会的地位が高かったらそれで無双できるかっていうと別にそうじゃないですし、特にアトムみたいなクラブのフロアでその辺の女をナンパする場合だとクソ金持ちでもその辺の会社員でもぶっちゃけ大差ないと思います。要は自分よりもしっかりしてるかとか尊敬できるかってどうかが1つの判断基準になるんで。そのしっかり感とか尊敬の程度についてはそこまで関係ないっすね。ゲヘヘヘヘ』といったこれまでに幾度となく繰り返された会話をしながら、ATOMのエントランスをくぐる。さあ、ゲームの始まりだ。

 

26:00 ATOM TOKYO

フロアを一通り案内してもらった後、最上階でアルコールを嗜みながらタバコの煙と戯れる。いくつかのフロアを擁するこのクラブでは、階層ごとに違ったテイストの音楽が流れる。関西のクラブの中では大阪のgiraffeがそれに近いのであろうが、実質メインフロア以外でのナンパが許容されていないgiraffeと異なり、比較的どのフロアでも案件へのアプローチが可能であるような印象であった。僕がこれまでに経験したクラブの中では名古屋のID CAFEと最も似ていると感じた。

ワンフロア系のクラブであれば案件を一旦放流した後に別の案件と和んでしまうと、それを見た前の案件からの食いつきが下がる可能性もあるが、ここまで規模が大きいとそのリスクは比較的小さいと考えられる。今回は5-10分程度の和みでできるだけ多くの連絡先をかき集め、クローズ直前にその中から最も即に繋がる可能性が高い案件と合流する手法を選択した。

 

26:15 ATOM TOKYO

4のコンビから連絡先をゲットする。放流もスムーズであった。『まあまあ幸先いいっすね、今日は僕もやる気あるんでこの調子で10件行きましょう。そしたらさっさとクラブ出てラーメン食いながらザオラルしましょう、それがマジ完璧っす。ゲヘヘヘヘ』相変わらず調子のいい男である。フロアでは多少無理目のナンパも比較的目立っており、状況としてはやや荒れ気味であった。正3、逆3でのアプローチも目立つ。「奪える機会があればしっかり奪ってやろう」そう耳打ちする。

『そうだ、サインの確認しましょう。ゲヘヘヘヘ』「お前今更それするの」昔は色々とサインを決めていた我々であったが、アイコンタクトだけで全てを察することができる我々に細かいサインはもはや不要であった。簡単なサインの確認を行い、フロアを周回する。どのようなフィールドであっても基本的に理で勝負する僕にとって、申し分ないウイングである彼とともに行う戦略的なゲームは非常に幸福度の高い行為であった。

 

27:00 ATOM TOKYO

最初のうちはサクサクとそれなりの案件を中心にナンパし、連絡先の回収に努めていたが、次第に我々の動きが鈍くなる。僕がオープンした案件を彼が放流することが数回続き、これはスト値グダであると察する。この日のATOMでは案件の数には困らなかったのだが、如何せんスト値にやや問題があるように感じた。東京で数多くの小マシな女を食い散らかした彼と、ほぼ童貞に近い僕との間では可食域の差は明確であった。以前よくコンビを組んでいた時にも我々は下手なくせに案件を選びすぎて結局大してナンパせずに坊主を叩くことがよくあった。この日発生した彼のスト値グダも必然といえば必然であり、そのスト値グダでさえも僕にとっては懐かしいものであった。

 

27:30 ATOM TOKYO

『なんか俺ら勢い落ちてきてませんか。ゲヘヘヘヘ』上記の状況から、僕は自分から積極的に案件を捕まえることができなくなっていた。事情と状況を言葉で明確に彼へと伝える。『ああ、確かに割とスト値グダありますね。ゲヘヘヘヘ』

厳密な役割分担をするとポジショニングを含めた柔軟性が落ちるため、これまでは前衛後衛制を採用していなかった。しかしこの状況下ではそれを採用するのが最善であると思われたため、アプローチを全て彼に任せ僕が全ての相方に対してフォローを行うこととした。これできっと大丈夫。我々は折れかけた翼を取り戻し、また大空へと羽ばたけるはずである。

 

28:00 ATOM TOKYO

クラブの状況はかなり厳しいものになっていた。案件が疲れ切っている。この状況を突破する最も効果的な武器は何だろうか。案件とテンションを合わせる?他の男たちのナンパをdisり、差別化を図る?いや、我々はPick Up Artistだ。そんな小細工なんかより、自分達自身の魅力でここにいる女たちを正面突破しよう。古臭い伝統芸、見せてやろうじゃないか。

ミリオンダラースマイルとともに「やあ、パーティでもしてたのかい」と声をかける。古来からナンパクラスタに伝わる最強フレーズと、顔立ちの整った僕の満面の笑顔が織り成す最高のコンビネーション。自分がイケメンで良かったと実感する瞬間である。が、なぜか案件の反応は芳しくなかった。大方の案件が明後日の方向を向く。一体こいつらはどこを見てるんだ、眼科に行った方がいいんじゃないのか。 

『まあぼちぼちっすかねー。ゲヘヘヘ』彼の促しに応じ、これ以上の案件確保は諦め、クラブを後にすることとした。

 

 28:30 俺流塩ラーメン 渋谷本店

『せっかく来てるんだから東京っぽいラーメン屋行きましょう。ゲヘへへ』彼が期待に目を輝かせた僕を連れて行ってくれたのはATOMから徒歩5分のラーメン屋である。前振りからの落差がえげつない。クラブでの行動を振り返りながら、ああでもないこうでもない、と議論を交わす。数年ぶりのその感覚をスパイスに胃に流すラーメンはとても、とても人間的な味がした。

その後確保した数件の案件にラインを送るも、残念ながら望んでいた反応を得ることはできなかった。一方彼は逆ナンを受けた案件が良い反応をしているとのことである。彼とその案件の合流を見届け、この日は解散となった。

 

29:30 道玄坂

帰路に着く前に試してみたかった、というか単に言いたかった言葉がどうしても残っており、その辺を歩いている案件を捕まえる。

“どこ山学院大学の女“

以前拝読していたブログでのルーティンだったが、関西圏では使用する機会に恵まれないため、ここぞとばかりに使ってみる。果たしてこのルーティンはどうやって使うのであろうか。何となく和むも、定番の『始発で帰るグダ』を崩せずに放流。

逆ナンされた案件をそのまま手早く持って帰るウイングにこの2日間の感謝と若干の嫉妬が入り混じった称賛のラインを送り、タクシーに乗り込む。やはりクラブナンパは顔と身長である。そんな当たり前のことを今更ながら思い知り、帰路についた。

 

BOOOOOOOOUZXE!!!

  

使用コスト

CLUB ATOMEntrance Fee 3500

タクシー代:1500

  

※1

<案件をキープし続ける場合>

当該案件に対する連れ出しが成立する期待値をA

連れ出した後の即への期待値をB

<連絡先を集める場合>

連絡先を交換した案件と後から合流できる期待値をC

合流した後に即へと繋がる期待値をD

とそれぞれ設定した場合、フィールドの規模が大きければ大きいほどゲームの途中経過におけるCの低下リスクは低い。また数を確保することができる分、Cの集合>Aという図式が成り立つ。各々個別の案件に対して、単品で見る場合であればBを上回るDは容易には得られないであろうが、それよりもCの集合で勝負し、その集合の中から最もDの大きなものを選択することに優位性がある。

フィールドが小さい場合や見通しがいい場合はこの逆が成立し、案件決め打ちでしっかり和んだ方が勝率の高い状況も時として存在する。

ちなみに筆者もアホではないので、実際の現場ではケースバイケースとなることがほとんどであるいうことについては重々承知している。

 

※2

ナンパ,あるいは偶発的に出会った女性を魅了するという行為について

http://pickyuuup.hatenablog.com/entry/2013/03/29